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2021年03月16日 19時10分

スタディーツアー・起業…思いを形に クラウドファンディング使う学生たち

スタディーツアー・起業…思いを形に クラウドファンディング使う学生たち

 インターネットで資金を募る「クラウドファンディング(CF)」を使って、机上の学びを現実社会で形にする学生たちが増えている。お金を手にすることで、責任を持ってやり遂げる。そんな力を身につける機会にもなっている。

 「理想の教育とは? 次世代を担うミャンマーと日本の学生が考える7日間

 国際基督教大(ICU)4年の山中美有さん(22)と上智大1年の猶井(なおい)咲喜さん(18)の2人は今夏、こんなタイトルで「A-port」で資金を募った。10月にミャンマーの大学生4人を無償で日本に招き、日本の学生らと交流しながら教育のあり方について学ぶスタディーツアーを実現させるためだ。

 企画のきっかけは、山中さんが昨年3月に初めてミャンマーを訪れたこと。本格的な民主化に動き始めたばかりの同国では、大学進学率は約1割。若者が自分の意志で進路を決定したり、海外に興味を持っても留学したりすることは経済的にも難しい。

 そんなミャンマーの若者たちが日本の同世代の学生たちと交流する場があれば、将来の両国の関係に何かつながりが生まれるのではないか、と考えた。

 帰国後、企画をICU同窓会主催のコンペに応募したところ、2千ドルの賞金を獲得。だが、必要な経費を試算すると、少なくとも100万円は必要だった。助成金などを足しても、60万円足りない。そこで、CFの活用を思い立ち、同時並行で企画の準備を進めていった。

 猶井さんと2人でミャンマーを訪れ、企画に応募してきた30人の学生について書類選考と面接を実施し、4人を選んだ。学生たちは、「少数民族や性的少数者といった差別を受けている人々の助けになりたい」「紛争で学校に通えない子どもたちの力になりたい」などの夢を語ったという。

 「企画への期待はとても高かった。面接に両親同伴で来た学生もいて、責任を感じた」と猶井さんは話す。山中さんは、「お金が集まってうれしい半面、本当にやらなくちゃという不安も大きくなった」。

 結局、CFでは、目標額の70%の42万3千円が集まった。別の助成金なども得られたため、必要資金を集めることができた。応援メッセージももらって身が引き締まる思いだった、という。

 スタディーツアーに参加したヤンゴン大2年のエイタンダエさん(18)は、「最初は、なぜ同世代の学生が私たちを日本に招待できるのか信じられなかった」。滞在中は高校や大学の授業を体験したほか、山梨県小菅村も訪れた。「人生でとても大きな経験になった。今度はミャンマーで自分が同じような企画を立てたい」と話した。

 ■起業の現実、授業で体験

 大学の授業でCFを使い、現実社会で起業や事業の立ち上げを学ぼうとする取り組みもある。

 学習院大(東京)では今秋、経営学科の学生を中心にした「インキュベーション塾」の授業が始まった。学生たちはまず米国シリコンバレー発の起業手法を学ぶ。4カ月間の授業で社会の問題を解決するアイデアを練り、CFで資金を調達する。

 学生たちが挙げたアイデアは、日常に潜む危険をまとめたサイトの作成やアートのビジネス化など。期間中に必要資金が調達できなければ返金し、事業化は見送る。

 経営学科3年の松本耕大さん(20)は、広告などを活用したスマホの無料充電スポットを街中に作ろうと考えている。「お金を集めるのは正直怖い。でも、実現できたら、新しい可能性を発見できるかもしれないし、就職活動でも実績としてアピールできるかもしれない」と意気込む。

 指導する斉藤徹・特別客員教授は、豊富な起業経験を持つ。授業に先立ち、学生たちに口酸っぱく言ったことは、「お金が集まったら、責任を持ってやり遂げること」。自身も経営で多くの失敗を経験している。「CFで実際にお金を得ることで責任を感じ、授業やビジネスが『自分ごと』になる。経営学を学ぶには最もいい手法の一つだと思う」と話す。

(斉藤寛子、朝日新聞2017年11月11日朝刊)