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2018年08月27日 16時38分
ふるさと納税で、地域の課題解決に取り組むNPOの活動を支援する動きが広がっている。インターネットで資金を募る「クラウドファンディング」の手法を採り入れたものだ。豪華な返礼品が注目されがちなふるさと納税だが、NPOにとって活動資金を得る新たな手立てになっている。
約1800世帯が暮らす佐賀市川上地区。主婦吉田素代子(そよこ)さん(86)がNPO「かわかみ・絆の会」(佐賀市)が実施している無償輸送で、病院から帰宅した。
「バスだと大回りになるから、助かります」
NPOが発足したのは2015年。
「運転に不安を感じて運転免許を返納する人が増えた」(松﨑逸夫理事長)といい、利用者は当初の15人から100人超に急増した。週4日、5人の運転手が送迎にあたる。
課題は、運営費だった。1人月千円の会費だけでは維持費をまかなえない。そこで頼ったのが、ふるさと納税の使途先として団体を指定できる佐賀県の制度。支援先NPOとして登録すると、年間700万円前後が集まり、車を2台に増やすこともできた。
松﨑理事長は「お年寄りが外出したいというニーズは確実にあるので、続けられる仕組みが必要だ」と話す。
がん対策のNPO「クレブスサポート」(吉野徳親〈のりちか〉理事長、佐賀市)は、ふるさと納税の資金で事業拡大を目指す。がん患者や家族の相談に乗るピアサポーターを養成し、患者らが語り合う「がんサロン」を県内11カ所で開催。サロンを20カ所に増やし、がん患者の体験記を発行する計画だ。
昨年12月には市内の小学校で患者3人が医師と共に教壇に立ち、自らの体験を語った。患者への偏見をなくそうと、クレブスサポートの養成講座を受けた患者による「がん教育」で、さらに展開していく予定だ。
■自治体通じ譲渡
佐賀県の制度では、寄付額のうち県の事務経費を除いた95%がNPOに渡る。返礼品はNPOが用意している。
寄付額は11年度当初は年50万円ほどだったが、14年度から急増し、17年度は4億6千万円超。県へのふるさと納税額の7割近くを占める。担当者は「地域活動を行政だけで担うことはできなくなった。NPOが資金を確保できる仕組みを提供できれば」。
同様の仕組みは、埼玉県や東京都中央区など他の自治体にも広がっている。
自治体が取り組むふるさと納税を通じ、資金を募る手法は「ガバメントクラウドファンディング」(GCF)と呼ばれる。
ふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」は13年、GCFのページを開設した。「日本で殺処分される犬をゼロに」(広島県神石高原町)、「こども宅食でこどもと家族を救いたい」(東京都文京区)など、プロジェクトを紹介。賛同した人の寄付の大半が自治体を通じてNPOなどに渡る仕組みだ。
掲載プロジェクトは15年は28件、16年は66件、17年は111件と増え、累計寄付額は約30億円に上る。
運営するトラストバンク(東京)の須永珠代(たまよ)社長は「自治体を通じて寄付できるため、有名ではないNPOも信頼を得やすい。地域の課題解決につながるという共感が、資金調達の有効な手段になっている」と話す。
■支援の裾野拡大
日本ファンドレイジング協会の「寄付白書2017」によると、日本の個人による寄付総額は09年の5455億円から16年の7756億円へと増加。寄付をした人数もこの間に805万人増え、16年には4570万人を超えた。寄付の裾野は確実に広がっている。
寄付のあり方も多様化している。
インターネット大手のヤフーが04年の中越地震を契機に始めた「Yahoo!ネット募金」は、ネット上で寄付ができるシステムだ。クレジットカードのほか、買い物でためたTポイントも1ポイント(1円相当)から寄付に使える手軽さが好評で、これまでに計約40億円の寄付を集めた。
亡くなった後に遺産をNPOなどに寄付する「遺贈寄付」にも関心が高まっている。ただ、事前に遺言を作成しておくなどの手続きが必要だ。16年に発足した「全国レガシーギフト協会」は全国16カ所の窓口で、遺贈寄付の仕組みや寄付先などの相談に応じている。年間1500件ほどの相談があるという。
寄付の手法や相手先をどう選べばよいか悩ましいが、日本ファンドレイジング協会の鵜尾(うお)雅隆代表理事はこうアドバイスする。
「人を巻き込んでいる組織を評価し、選んでもらいたい。そうすることが団体間の競争を促進させ、良い課題解決につながっていく」
NPOなど寄付される側にもこう注文する。
「寄付して下さった方に、社会貢献に対する達成感をもってもらうことが大切。感謝の報告を忘れないでほしい」(山下剛、平林大輔、松浦祐子)
(2018年5月14日、朝日新聞朝刊)