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プロジェクト

2018-07-03 16:23:10

「二宮金次郎は、今の時代にこそ必要だ」。あの銅像からは分からない「革命家」の実像、五十嵐匠監督が映画化

「二宮金次郎は、今の時代にこそ必要だ」。あの銅像からは分からない「革命家」の実像、五十嵐匠監督が映画化

 薪を背負いながら本を読む幼少期の像が知られる、農政家の二宮金次郎(尊徳)。実は、江戸時代後期に600以上もの荒廃した村々を立て直した「革命家」だったことをご存じだろうか。その実像を伝える映画の制作が進んでいる。メガホンをとるのは、「地雷を踏んだらサヨウナラ」「長州ファイブ」などの作品で知られる五十嵐匠監督(59)だ。「捨て身で復興にかかわった姿を見てもらいたい」と2019年の公開を目指して、クラウドファンディングで制作資金の一部を募っている。

 五十嵐監督が二宮金次郎に関心を持ったのは約3年前。前作の「十字架」(重松清さん原作)を撮影した茨城県筑西市で、地元の教育長から「二宮金次郎という人間を知っていますか? 筑西は、二宮金次郎が復興した土地なんです」と言われたのがきっかけだった。


 気になった五十嵐監督は、金次郎が生まれた小田原の生家や、復興に尽力した土地などに足を運び、1年近くかけて足跡を調べた。浮かび上がってきたのは、「偏屈だが、自分の信じる道を脇目も振らずに進んでいく」という姿だ。五十嵐監督はそこに、「地雷を踏んだらサヨウナラ」で描いた戦場カメラマンの一ノ瀬泰造と通ずるものを感じた。最初の結婚は続かなかったが、後に再婚した2番目の妻は大切にしたという人間味のあるところにも惹かれた。

 金次郎について深く知るうちに、五十嵐監督は金次郎のことを農政家というよりも「革命家」だと思うようになったという。

「復興のやり方が独特なんですよ。だれが一番まじめに働いていたのか、入れ札で投票して決めてお金を渡すとか、よそから百姓を入れて新しい土地を開拓するとか、今まで小作人だった男に、がんばれば土地を与えて本百姓にするとか......すごく合理的に物事を処すんです。今までの封建的なやり方をぶちこわすようなやり方で、革命的なことですよね」


©映画「二宮金次郎」製作委員会

「農業をやっているけど、農業で稼いでいないんです。幼少のときから薪を売ったり、わらじを編んだり、いわばアルバイトをして小金を稼いでいる。若いころは高利貸しや米相場も経験して、金にまつわることは結構やっていたようです。そこは百姓あがりといいながら、変わっていますよね。ただ、経済と道徳は別個のものではなく、一緒になって動いているという考えを持っている。お金の儲け方にも徳があるというのが、二宮さんの独特の考え方ですよね」

 金次郎の名声を高め、今回の映画の中でも重要な位置を占めるのが、桜町領(現・栃木県真岡市)の復興だ。小田原藩主・大久保忠真から指示を受けた金次郎は、現地に赴くときに自身の全財産を処分して70両を作り、その金を復興の資金に充てたという。

「復興が進んでいくと、二宮さんもお金がもうかるじゃないですか。でもそこで二宮さんは『墓石を建ててはならない。ただ土を盛り上げて、その傍らに松の木を1本植えておけばいい』というようなことを言う。そういう潔さや、金は人のためにという考えを持っている。『推譲』(すいじょう=金次郎が唱えた報徳思想の原則の一つ)ですよね。そこに僕は惹かれるんですよ」


撮影中の五十嵐監督 ©映画「二宮金次郎」製作委員会

 「いろいろ調べると途中で止まれなくなっちゃう」という五十嵐監督は映画化を具体的に考え始めた。だが、映画やテレビ番組の制作会社に企画を持って行っても、軒並み断られたという。

「『なんでいま、二宮金次郎なのか?』

 『そんな戦前の修身のにおいがするようなもの、誰が見るんだ』

 『エンタメ性が乏しく、教育映画みたいになるんじゃないか』

 最初はそんな反応でしたね。自分がプロデューサー的にお金を集めるところから始めないとダメだと思いました」

 五十嵐監督は、金次郎が復興にかかわった土地の自治体などゆかりのあるところから支援を集めた。その一方で、「積小為大」(せきしょういだい=小さな事を積み重ねて大きな事を成し遂げる)という金次郎の精神に鑑み、クラウドファンディングにも挑戦することにしたという。


©映画「二宮金次郎」製作委員会

 映画では、金次郎を合田雅吏さん、妻なみを田中美里さん、大久保忠真を榎木孝明さんが演じる。脚本は映画「武士の家計簿」の柏田道夫さん。タイトルは当初、NHK番組「プロジェクトX」を意識して「地上の星―二宮金次郎伝」としていたが、シンプルに「二宮金次郎」とすることを考えている。

「直球で二宮金次郎を描いているので、そのままでいいかな、と。青年期の彼の生涯は映像ではほとんど描かれてこなかった。知られざる人間的魅力と凄さが出ているので、『わあ、こんなことしたんだ』って、ちょっとびっくりすると思う」

 ドキュメンタリー出身の五十嵐監督は、これまでも実在の人物や出来事に基づいたリアルな作品を多く撮ってきた。今回の主人公となった金次郎は、五十嵐監督にとって、どう見えたのだろうか?

「これまでの主人公との決定的な違いは『深さ』ですね。二宮金次郎が豊田正作(上役の武士)と対立したとき、二宮さんは『一円観』という考え方にたどり着いた。自分に反対する者には反対者なりの理屈があって、その反対者も一つの円の中に入れ込んで、そこから何かが生まれると考えるんです。豊田も最後は二宮金次郎の味方につく。そこまで相手を変える魅力があったし、現代でも二宮さんの思想や手法を大切にしている人が世の中にたくさんいます。それは一ノ瀬泰造や他の映画の主人公とは決定的に違うところですね」


五十嵐匠監督

 映画にはもう一つ、福島県の相馬、飯舘、浪江地区など原発事故で被災した地域への思いも込められているという。

「あの辺りの地区は約160年前、二宮金次郎の弟子だった富田高慶が10年、20年かけて二宮さんの手法で命がけで復興させたところ。それが一瞬でダメになった。本当は映画のラストで原発事故を入れたかったぐらいです。そうすると内容が変わっちゃいますのでしませんでしたが、でも僕の中では裏テーマとしてはあるんですよ」

「いまの日本には壊れているところがあると思います。身の丈を知るという『分度』(ぶんど)、儲けたお金を人のために使う『推譲』――戦前の修身で二宮金次郎はうまく利用されてしまったところがありますが、今の時代にこそ必要なんじゃないかな、と思うんです」

     ◇

 クラウドファンディングでは金額に応じて、DVDや映画鑑賞券、公式サイトへの名前掲載などのリターンが用意されている。詳細はhttps://a-port.asahi.com/projects/HoshiMovie/

(伊勢剛)