成功者の声
2021年03月16日 19時13分
今回のコラムでは、「トミモトラベル」が挑戦した「種子島で、タイムスリップした宇宙バスガイドを演じるアートパフォーマンスをしたい」のプロジェクトを分析しながら、クラウドファンディングの成功の秘訣を探っていきたいと思います。
「トミモトラベル」は、バスを見失ったバスガイドに扮して日本津々浦々の観光地をさまよい歩くパフォーマンスアート作品の名義です。今回のプロジェクトは種子島宇宙芸術祭2018(10月20日~11月25日)の「宇宙のタネ」という企画の一つとして起案されました。達成時実行型(All or Nothing)でクラウドファンディング自体が芸術祭の審査になっており、目標額を達成すると、芸術祭の公認プロジェクトになるという仕組みです。昨年は9件のうち5件、今年は4件のうち3件が目標額を達成して、公認を勝ち取りました。「種子島で、タイムスリップした宇宙バスガイドを演じるアートパフォーマンスをしたい」は今年の参加者の中で、最も多くの金額を集めたプロジェクトです。
「トミモトラベル」のプロジェクトについて、まずは、基本的な情報を見ていきましょう。
支援者数 89人
支援総額 545,237円(目標額40万円。達成率は136%)
実施期間は、7月25日~8月31日の38日間でした。
これまでA-portに掲載されたプロジェクトの支援金額の平均は1件あたり約112万円です。集めた金額だけ見れば、突出した数字ではありません。
しかし、「トミモトラベル」のプロジェクトが支援を集めていった過程を見ていくと、クラウドファンディングをやる人が見習うべき点がいっぱいです。ここではスタートダッシュとラストスパートに絞って分析していきます。
「トミモトラベル」のプロジェクトへの支援は、7月下旬と8月下旬に集中しています。「始まったんだ。がんばって」という開始直後。「締め切り前に支援しなくちゃ」「ここまでがんばってきたみたいだから支援しよう」という終盤。いずれもクラウドファンディングでもっとも支援が入りやすい時期です。このタイミングでどんな手を打つかがプロジェクトの成否を大きく左右します。
スタートダッシュについて詳しく見ていきましょう。
開始1週間で約15万円の支援を集めています。ここで知ってほしいのは、プロジェクトが始まってから慌てて動いても、スタートダッシュはうまくいかない、ということです。
「トミモトラベル」のツイッターとフェイスブックのアカウントを見ると、プロジェクト開始の5日前の7月20日に、「来週から、ついに、クラウドファンディング始まるかも」と予告の投稿をしています。そして始まった7月25日には「37日間という短い期間のクラウドファンディングとなります。皆さんの応援・叱咤激励・シェア・拡散に期待しております。よろしくお願いいたします」などとプロジェクトのスタートを告知し、知人やこれまでの活動でファンになっている人たちに協力を求めています。
米国の大手クラウドファンディングサイトIndiegogoのCEO、Slava Rubin氏は自社サイトのデータ分析などを元に、「最初の1週間で目標の25%以上を集めると、達成率は5倍に上がる」と指摘しています。また、「空っぽのキャンペーンを支援したい人はいない」と、立ち上がりの段階では、家族や友人に手伝ってもらうことを勧めています(IndiegogoのCEOが教える、クラウドファンディングで成功するためのヒント集 TechCrunch Japan 2013年10月23日記事を参照)。
トミモトラベルは今年が活動10周年で、これまでの積み重ねがありました。このように協力してくれる支援者に向けて事前から呼びかけておくことは、好スタートを切り、クラウドファンディングを成功に導くための大きな力になります。
スタートダッシュに成功したトミモトラベルですが、8月に入ってからしばらくは苦戦が続きました。自身の写真作品の個展でチラシを配ったそうですが、反応は今一つだったそうです。
流れを大きく変えたのは、【1000円と100人の5分】と題した8月23日の投稿でした。
「まさか私が「皆さまひとりひとりの力が必要」なんて言う日が来るとは・・・・!自分で驚いてます。
今、クラウドファンディングに挑戦してます。
そして苦戦してます。期限まであと8日。最後まで諦めたくない。」
と書き、支援に必要な手続きは5分程度で済むこと、そして「1週間で100人から1000円ずつを集める」として、「何卒、皆様の貴重な5分と1000円の寄付、そしてシェアよろしくお願いいたします!」と呼びかけました。並行してLINEやmessengerでもお願いしたそうです。
すると23日には19人、24日には12人から支援があり、25日には目標額の40万円を超えました。8月22日までの支援総額は20万円弱だったので、それまでの28日間とほぼ同じ金額が23~25日の3日間で集まった計算になります。
その後も支援は増え続け、最終日には目標達成のお礼のメッセージとともに、
《「100人から1000円ずつを支援してもらいたい」という目標まではあと少し》
《100人まであと17人 もしかしたらもしかしたらクリアできるかも》
とさらに支援を呼びかけました。
最終的には89人から約54万円の支援を得ました。
10年間の活動で多くのファンを作ってきたことが下地となりましたが、ラストスパートの段階で「100人から1000円」という聞いた人が分かりやすく広めやすい秀逸なキャッチコピーを打ち出したことが、このプロジェクトの支援を大きく伸ばした決め手になったと言えます。
見事成功したこのプロジェクトですが、起案者本人はA-port事務局の担当者に「残り10日ごろから焦って、心折れそうになりましたが、最後まで無理でも頑張ろうと決めて頑張りました」と一時はくじけそうになった心情を明かしています。日本では欧米と比べると個人がアートを支援していく風潮がまだまだ弱いと感じており、「それが変わっていく小さなきっかけになれば」との思いを抱いて、クラウドファンディングにチャレンジしたそうです。
クラウドファンディングでは、どんなプロジェクトでも支援が伸び悩む時期があります。
そこで挫けずに初心を持ち続けることこそが、成功につながります。(伊勢剛)
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