プロジェクト
2017年04月06日 10時15分
Googleがスポンサーを務める月面探査の国際レース「Google Luner XPRIZE」。賞金総額は3000万ドル(約33億円)、優勝賞金2000万ドル(約22億円)。
規格外のスケールを誇るレースに、日本のチーム「HAKUTO」がファイナリストとして残っている。
ライバルは、アメリカ、インド、イスラエル、インターナショナルチームの4チーム。2000万ドルの行方も気になるところだが、このレースの勝者は、月という100兆円市場を切り拓くチャンスを得られるのだ。
そもそも、地球発の月面争奪戦とは何なのか。そして日本に勝機はあるのか。HAKUTOの主要メンバーであり、ispaceのCOO中村氏に聞いた。
月面で問われる、モノづくり日本の真価
中村:我々は民間初の月面探査に、HAKUTO(ハクト)というチームで挑んでいます。参加しているレースは、Google Lunar XPRIZEという月面探査レース。レースを制する条件は3つミッションをクリアすること。
月への打ち上げ期限は2017年末。優勝賞金が2000万ドルで、賞金総額は3000万ドル世界各国からの計16チームが参加し、2017年1月24日にファイナリストが発表されました。
そこに残ったのは、インド、イスラエル、アメリカ、インターナショナルチーム、そして我々HAKUTOの5チームです。
そしてこれが、僕らがつくっている、月面探査ロボットローバー「SORATO」。このローバーの特徴は、世界最小の惑星探査ローバーであること。競合のものと比較しても、桁違いに軽いのです。
- 軽ければ軽いほど、燃料のコストが下がり、打ち上げコストが安くなるということですか?
中村:その通りです。打ち上げのコストを極力減らすため、軽く小さいローバーを意識し、設計しています。
ちなみにこのローバーの源流となっているのが、我々と共同で研究開発している東北大学、宇宙ロボティクス研究室の技術です。この研究室をリードする吉田教授は、小惑星探査機「はやぶさ」1号機、2号機のロボット機構を担い、雷神という超小型衛星の開発と運用を手がけた日本トップの宇宙ロボティクスの研究者です。こうした技術力が認められる形で、中間時点で優秀とされるチームが受賞する賞もいただけています。そう、日本のモノづくりの力が世界に認められた瞬間とも言えますね。
ジェフ・ベゾスも見つめる月面、そこは100兆円市場
-- そもそもですが、なぜ民間として月を目指すのでしょうか?「小さい頃からの夢」 という理由だけで、ここまでの年月と莫大な費用はかけらないと思うんですが。
中村:我々のビジョンは、「Expand our planet. Expand our future」。将来、宇宙に人間が暮らせるような生活圏の創造です。
そこで月面にガソリンスタンドをつくるというところを中長期的なミッションにしています。実は月に、MAX約60億トンの氷水が眠っていると言われています。
その水を水素と酸素に分ければ、それがロケットや地球の周回に飛んでいるような衛星の燃料になり得るんです。つまりは月の資源、特に水を中心としたエコシステムができるだろうと考えています。
ここの根本にあるのが、輸送コストの経済合理性。地球と月の距離は約38万kmありますが、物理の話で、月から1kgのものを運ぶコストと、地球から1kgのものを運ぶコストと比べると前者の方が圧倒的に安い。1/100くらい違うのです。
ですから、月に拠点を設け、地球の周りの衛星に補給するほうが経済合理性は高い。そうした未来を描いて、今回のレースに参加しているのです。
―― アメリカも当然、目をつけているのではないですか?
中村:ええ、もちろん。現トランプ政権下では、政府ではなく民間宇宙ビジネスを推進するという方針になっています。現状、宇宙のマーケットは30兆円くらいとされていますが、2030年には100兆円くらい※になるとも言われていますね。(※「ULA Innovation CisLunar-1000」より)
その一番のドライビングフォースが先ほどお話しした、宇宙資源開発という産業が立ち上がるということ。とはいえ、水の売買となると、資源の所有権の問題になりますから、宇宙条約の中で「国家はいかなる天体の資源を所有権として認めない」としています。
ただ、アメリカは2015年に民間企業は所有権が認められるという法律をつくったんですよ。
―― やはりアメリカ、ルールメイカーに。
中村:そうなんです。ちなみにルクセンブルクも、2016年に宇宙資源開発を国策とすると発表し、本年度中に米国がつくったような宇宙資源の所有権の法律を整備する予定です。日本も、2016年末に宇宙基本計画工程表を策定するなど、法整備も進んでいます。
国だけでなく、民間も活発ですね。かのトランプと2大巨頭とされているビゲローが、ISS(国際宇宙ステーション)周辺に宇宙ホテルをつくり、後に月面のホテルをつくると表明しています。
あと、イーロン・マスクもスペースXで宇宙をめざし、Amazonのジェフ・ベゾスもブルーオリジンという航空宇宙企業を設立し、2020年までに月面の輸送のサービスを展開すると宣言するなど、民間の有力企業も今や月面を目指してますね。
敵は、アメリカ、イスラエル、インド……Japan Prideが試される時
中村:ちなみに、1回の打ち上げに関わる費用ですが、数億、いや10億円規模になりますから、僕らだけでこの費用は捻出できません。そこでいろいろなパートナー企業さんから支援をいただいています。
メインは、オフィシャルスポンサーのauさんやコーポレートパートナー、技術提供やサービス提供をいただいているサポーティングカンパニーふくめ、27社ほどに支援してもらっています。
あとは、今回、クラウドファンディングで個人からの支援も募っています。
―― 企業、そして個人の支援があり、今回のプロジェクトに繋がっているわけですね。まさにオールジャパン。とはいえ、100兆円規模になると、各国も本腰を入れていますよね?
中村:ええ、各国とも、かなり手強いです。
我々が相乗りして行くインドのチームインダスは、マシンの設計が非常にうまい。軌道の計算とか、着陸時のシミュレーション、画像を処理して着陸精度を上げるなど、数学や物理学を中心とした設計力を有しており、手強いです。
イスラエルのスペースILは、イーロンマスクのスペースX社のロケットで行くと言う情報が入っています。イスラエル自体、テクノロジーベンチャーが多く、国としても非常に技術力もあるまた、今回の月面探査から、彼らは教育を強化しようとしています。
- 教育?
中村:1969年、アポロが着陸したときに、アメリカが一気に盛り上がり、「俺もエンジニアになる、宇宙飛行士になる」という人が増えたんです。そういう、いわばムーブメントを、イスラエルの若い世代に経験させたいと思っているようですね。ほとんど宇宙開発自体に対するプレゼンスもなかったので、国としてもすごくバックアップしているというのは聞いています。
アメリカのムーン・エクスプレスは、CEOのボブ・リチャーズの存在感が強いです。アメリカらしく、ロビイングに長けており、エクイティベースでけっこうお金を集めています。開発力においてもNASAのエンジニアを囲うなど、見張るものがありますね。
- なかなかの体制を整えていますね。
中村:ええ、だからこそ、我々もAll Japanで望まなければなりません。支援とは金額だけでなく、声援でもあります。だからこそ、我々は今回、クラウドファンディングで個人の方からの応援を募っているのです。
企業へのスポンサーシップの働き方は継続していきますが、私たちHAKUTOのチャレンジをもっと知ってほしい。そして応援してほしいのです。
月、そして宇宙。今まで夢みたいと思っていた場所が、今回のプロジェクト成功で本当に身近になっていく。僕たちが今回のレースで優勝したら、きっと世界が日本のモノづくりの凄さに、再び注目するでしょう。そして「日本、すごい!」と沸き立つでしょう。
言い過ぎかもしれませんが、まさに日本代表として世界に負けられないのです。
「夢みたい」を現実に。一緒に叶えましょう!