成功者の声
2017年04月14日 09時59分
福島県白河市にある住宅が、週1回「子ども食堂」に変わる。手作りのごはんを無料で食べさせ、自主学習を支援する場「たべまな」だ。放課後の子どもたちの居場所になっている。
2月末、小学2年生から高校生までの13人が、座敷中央の長机を囲み、無心にキムチチーズ鍋を食べていた。
みんな無言で、鍋の具を食べる音しかしない。
少しすると、一変して声が部屋にあふれる。笑ったり、おしゃべりしたりしながら、おかわりに手がのびる。
「ねーねー、彼女はどんな人なのー」と、小6の女児が男子高校生をからかう。「どーなんだよ」と周りが笑う。小2の女児は、先輩たちの顔を見上げ、小皿にとった具を次々に口に運ぶ。「小学生のエネルギー、はんぱねぇ」と笑いながら、高校生たちも一気に平らげた。
大家族の食卓のようだ。
「たべまな」は、「食べよう、学ぼう」から名付けられた。非営利の任意団体「KAKECOMI」の代表で精神保健福祉士の鴻巣麻里香さん(37)が、木造2階建ての自宅を改修して運営している。
鴻巣さんは2015年7月、A―portで「たべまな」の運営資金の一部65万円の支援を募った。約121万円が集まり、15年9月に1回目の「たべまな」を開いた。
朝日新聞やテレビ、ファッション誌などにも取り上げられ、プロジェクト終了後も支援が続いた。六つの企業・行政機関から支援金をもらい、毎月3千円ずつ送ってくれる個人も現れた。3月には地元市長も視察に訪れたという。
「たべまな」では、午後6時から夕食。みんなで片付けをした後は、それぞれの時間だ。小学生らは2階の和室でドリルをしたり、漢字の練習をしたり。小学生とチェスをする高校生もいれば、お化粧ごっこをする女の子もいる。
参考書を開いた高校生がぼそっとこぼした一言に、隣の高校生が反応して教えてあげる。その姿を小学生が見る。
「たべまな」に通う高校生2人の親、工藤恭子さん(48)は、普段の生活では知り合えないさまざまな人と接した息子の変化に気づいた。発達障害の小学生が息子のひざにちょこんと座ってお菓子を食べていることもあったという。「息子が寛容になり、動じなくなりました」と話す。
鴻巣さんは「ここは駅の待合室みたいな所なのです」と話す。今や子どもの世界も分断がすすんでいる。年齢の違う子どもたちが交流する機会が減り、経済格差から放課後に塾や稽古ごとに行ける子もいれば、行けない子もいる。
どんな子どもにも居場所となるのが「たべまな」の目標だ。学校でいじめたり、いじめられたりして学校になじめない子どもでも気軽に立ち寄れる雰囲気を作っている。
横浜市南部地域療育センター所長で児童精神科医の井上祐紀さんは「病気と診断する前に、子どもが心地よく思える場所があれば解決するケースもある。『たべまな』はそんな子の居場所になっている」と話す。
「もう1個おにぎり食べていい?」。そうねだる小学生に、鴻巣さんは「いいよー。本当はスタッフの分だけど。おなかすかせて帰らせるわけにはいかないからね」と、きゃしゃな体から太い声を出して、明るく答えた。甘えたいのだと分かるからだ。
「大家族では肝っ玉母さんじゃないと」。そう鴻巣さんは笑った。
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