HOWTO
2021年09月15日 19時00分
クラウドファンディングの起案者の多くが、頭を悩ませるのが「リターン」です。
リターンとは、自分のプロジェクトを応援してくれる支援者にお返しする品物やサービスのこと。リターンの魅力は、支援の集まり方にも大きく影響します。
この文章では、リターンを考えるときに気を付けたいことをまとめました。クラウドファンディングをする方は、ぜひ参考にしてください。
~目次~
1)リターン設定の基本
2)リターン設定5つのポイント
(a) プロジェクトに関係のある品物・サービスを
(b) 似たプロジェクトのリターンはチェック
(c) モノがなければアイデアで勝負
(d) 価格帯はばらつかせる
(e) 赤字や大きな負担にならないように
3)最後に
クラウドファンディングのリターン設定でまず考えるべきことは、何人の支援者にいくらずつ支援してもらうか、ということです。
例えば、目標金額が100万円でリターンは3000円だけということになると、単純計算で334人から支援してもらうことが必要になります。
これで「限定300個」などと設定してしまっては、いくら頑張っても目標達成は難しいでしょう。
こう書くと当たり前のように感じるかもしれません。しかし、クラウドファンディングをしてみようと考え始めた時点で、こうしたことに思いが至らない起案者は案外多いのです。
では、実際に100万円を集めるには、どんなリターンが必要となるでしょうか? 過去の事例を元に考えてみましょう。
●「桜えびの本場」静岡・由比の仲買人の思い。桜えびの美味しさを全国に伝えたい。
https://a-port.asahi.com/projects/sakuraebi/
これは目標55万円に対し、101万円余りを集めて成功を収めたプロジェクトです。
リターンの金額と支援者の数は以下のようになっています。
2,000円 31人
5,000円 61人
9,000円 53人
16,000円 7人
支援者は計152人。見て分かるように、5,000円と9,000円のリターンに多くの支援が集まっています。
成功した過去のクラウドファンディングを見ると、3000~5000円のリターンと1万円前後のリターンで、支援の多くを集めています。
これらの価格帯のリターンをしっかりと考えることが、クラウドファンディングの成功につながります。
プロジェクトによって力の入れるリターンは変わってくると思いますが、100万円を集めようとするなら、こんな集め方が考えられます。
1,000円×10人=1万円
5,000円×50人=25万円
10,000円×60人=60万円
30,000円×3人=9万円
50,000円×1人=5万円
もちろん始める前の段階では、「捕らぬ狸の皮算用」に過ぎません。
しかし、具体的な数字を考えることで、クラウドファンディングに実感を持って取り組めるようになります。
資金調達に挑戦している最中にも、「あと最低10人は支援者を集めないといけない」などと、はっきりした目標を持つことができることにつながるでしょう。
では、具体的にどんなふうに考えればいいでしょうか?
ここでは必ず考えてほしい5つのポイントに絞って説明していきます。
クラウドファンディングは、プロジェクトに共感した人たちから広く支援を募る方法です。支援を考える人は何よりも、そのプロジェクトが成功すること、その成果が見られることを願っています。新たな製品をつくるのであれば製品そのものを、サービスを提供するのであれば、サービスそのものをリターンにすることを第一に考えてください。あなたのプロジェクトが魅力的なものであれば、それが最も魅力的なリターンになるはずです。
世界最大級のクラウドファンディングサイトKickstarter(米国)が始まったのが2009年。現在は国内にも多数のクラウドファンディングサイトがあり、様々なプロジェクトが掲載されています。映画なら映画、本なら本、ガジェットならガジェットといったように、自分が取り組もうとしているプロジェクトの先行事例を調べてみましょう。成功したプロジェクトのリターン、失敗したプロジェクトのリターンを見比べることによって、あなたのプロジェクトには、どんなリターンを設定するべきなのかが見えてくるはずです。
「リターンにできるものがない」。起案者からこんな悩みもよく聞きます。しかし、クラウドファンディングのリターンは、必ずしも立派な製品やサービスである必要はありません。
●「南三陸町の地でやらなければ意味が無い」被災地の28歳若手が酪農の再開を目指す
https://a-port.asahi.com/projects/minamisanriku-rakunou/
リンク先のクラウドファンディングは、東日本大震災で被災した若手酪農家が、被災地での酪農再開を目指したプロジェクトです。
リターンを見てみましょう。
・3,000円=牧場での牧草栽培・収穫の体験
・5,000円=牧場での牧草栽培・収穫の体験+乳牛のお世話体験
・10,000円=牧場での牧草栽培・収穫の体験+乳牛のお世話体験+無料酪農体験
読んでみると、「お金を払って労働をする」ということがリターンになっています。
通常ならお金を出す人は逆ですが、このプロジェクトには目標の80万円を大きく超える118万9千円が集まりました。プロジェクトを応援したい・参加したいと考える人たちにとっては、起案者と一緒にプロジェクトができるかけがえのない「リターン」として成立していたのです。
リターンの価格帯は、なるべくばらつかせることが基本です。知らない人でも気軽に支援しやすい3000~5000円、知人が支援者になりやすい1万円前後のリターンは、資金調達の中心になりますので、特に力を入れて考えましょう。
同じ価格のリターンがあると、「どちらにしよう」などと迷っているうちに、支援するのがめんどくさくなってしまう人もいますので、なるべく1つの価格では1つのリターンに絞ったほうが支援が集まりやすくなります。
できれば3万円以上、10万円や20万円の高額リターンも設定してください。
A-portで過去に成功したプロジェクトの支援額のほとんどは平均が1万円を超えています。あなたのプロジェクトが魅力的なら、そうした高額リターンに支援してくれる方が現れる可能性は十分あります。
リターンを魅力的にしようとして頑張りすぎて、手元に残るお金がなくなってしまったり、肝心のプロジェクトに取り組む時間がなくなったりしてしまっては、本末転倒です。クラウドファンディングで達成すべき目標を忘れずに。
社会心理学に、通称「ジャム研究」と呼ばれる有名な研究があります。
「ジャム売り場では、ジャムを24種類並べると、6種類のときよりも売り上げが低くなる」というものです。選択肢が多すぎると、人は選択自体をすることをやめてしまいます(シーナ・アイエンガー「選択の科学」<2010、文芸春秋>参照)。
クラウドファンディングのリターンも6種類ぐらい、多くても10種類ぐらいまでにしたほうがいいでしょう。数を増やすよりも一つ一つをブラッシュアップして、魅力的なリターンをそろえるようにしてください。
A-portでは一次審査に通過すると、専属の担当者がつき、リターン設定をはじめとするクラウドファンディングの様々な相談に乗ります。
詳細はスタートページ(https://a-port.asahi.com/start/)の「プロジェクト申し込み」からお申し込みください。
(朝日新聞社デジタルイノベーション本部・伊勢剛)