Project NAKA----クラシック音楽と多様な芸術ジャンルをコラボレーションさせた公演

メディア等掲載情報&参加アーティストコラム

  • Vol.5
  • 2020年08月25日 13時44分

<ピアニスト伊藤恵さんのホームページに掲載頂きました>

ピアニストの伊藤恵さんが自身のホームページにて当企画へのコメントをご紹介くださっています。ぜひご訪問ください!
https://kei-itoh.com/archives/2846

<茨城新聞に掲載されました>
2020年8月20日茨城新聞に記事が掲載されました。https://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?f_jun=15978405280354


---Column---

今回の担当は、第一回公演Vol.1ならびにVol.4に出演するヴァイオリニストの原田真帆です。リズム感のある文章で、長文の力作となっておりますので是非ご一読ください!(前回担当の主宰・伊澤悠のコラムはこちら

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「ありふれた酔っ払いの絡みと絶対的な音楽の話」

 とある冬の終わり、2月の夕方の上野駅。今はなくなってしまった改札近くの小洒落たカフェで、わたしたちはお茶を飲んでいた。もうすぐ学部の2年生が終わる頃、言わば放課後の寄り道で暖を取りながら他愛のない話を重ねていたら、何かの拍子に隣のテーブルに座るおじさんがぷっと吹き出して「そうかいそうかい」と話に割り込んできた。隣だから当然声は聞こえるのだが、それでもこちらの会話に特別耳をそばだてていた様子にたじろいだわたしたちには構わず、おじさんは続けた。

「君たちは音楽をやっているんだね、持ってるのはヴァイオリンか、そこの大学の学生さんかい? 僕の奥さんが大学の裏でカフェをやっているんだよ。そのうち遊びにおいで。ところでひとつ訊きたいことがあるんだけど、答えてくれるかい?」

音楽を聴くのが大好きだけど、自分は特に楽器ができるわけじゃあないんだよと自己紹介をしたおじさんは、問いかけを前に神妙な面持ちになったので、わたしは怪談話を芸にする男性芸能人を連想した。

「君たちは、音楽ってなんだと思う?」

 七面倒くさい絡みをする人だと思った、完全に飲み屋のそれだ。物言いにマンスプレイニングの気配もある。でも20歳のわたしは今以上に負けず嫌いの恐れ知らずで、やや前のめりに応戦した。音楽は宇宙のようなものだとわたしは思っていて、たとえば冬の満天の星空の下に立てば、人は往々にしてちっぽけな悩みなどどうでもよくなるものだが、良い音楽を聴いたときにはちょうど同じような気持ちになる、それは絶対的な存在で、極端な話わたしの一生をかけたってどうすることもできないと思っているけれど、それでも喰らいついていたいのである。確かそんなようなことを言った。するとおじさんは「なかなか良いぞ」と言って評価を述べる。そもそも音楽を専門に学ぶわたしたちの見解を、一介の趣味人がジャッジするなんてちゃんちゃらおかしいのだが、おじさんの前にはジョッキがひとつあったので真に受けすぎないことにした。

 なぜこんなありふれた「飲み屋の絡み」を記憶しているかと言えば、続く友人ふたりの回答が印象に残っているからである。音楽は聴いている人の経験やそのときの状況によって感じ方が変わるものだから、演奏するものとしてはそこに寄り添えたらいい、というようなことをひとりが言えば、もうひとりも、彼女が言ったように音楽は聴き手の状況によって受け取り方が変わるものだと思うから、同じ曲でもいろいろな経験を重ねてから改めて聴くと、違った聴こえ方がしてくるのがおもしろいと言う。それを聞いていて、絶対的な存在として音楽を語ったわたしとは異なり、ふたりは相対的なものについて話しているように聞こえた。はたして聴く人の状況によって受け取り方は変わるものなのか…? 音楽それ自体が芸術なら、どんな相手にも稲妻が走るような強さを持って然るべきではないのか。その疑問はそののち数年付いて回ることになる。

 おじさんは3人の見解を聞き終えてから持論を語り出したが、あまりわたしの心に刺さらなかったのか正直その内容は覚えていない。しかしその日は何より友人たちの興味深い言葉を聞くことができたので、わたしはその会話を「要検討ファイル」として記憶の箪笥に収めた。

 それから学部を終えるまでの間にもわたしは様々な経験を積み、泣きも笑いもしてめでたく卒業した。その中で、たしかに聴き手の感情が音楽の捉え方をかなり左右するのだと知るに足る経験もいくつかあった。自分が高校の卒業試験で弾いた曲が演目に含まれたコンサートを聴きにいったときには、隣の人からヘンに思われるんじゃないかというほど涙がごうごう出てきて、フラッシュバックする記憶をたどりながら、垂れる鼻を抑えるのに苦労した。あるいは、友人が立派に演奏した舞台を見たときに湧き上がってきた感情は、隣で苦労を見ていたからこそ生まれたものだろう。

 しかし心の中で友人たちに完全な敗北宣言を出したのは、その後留学したロンドンでの話である。2020年4月、あれから実に6年が経過している。ほかでもない新型コロナウイルスの影響でロックダウンに陥ったイギリスにて、わたしはおうちのバルコニーを舞台にご近所に向けて小さなリサイタルをおこなった。家に閉じこもるよう言い渡され、仕事を含む全ての予定を失い不安に駆られる日々の中で、知人の「これが今週のハイライト」という言葉が象徴するように、人々がエンターテイメントを欲していたことはぞくぞくするほど肌に伝わってきた。あの日あの場の熱は、ロックダウン宣言のあと3週間を経て居合わせた人でないと、真の意味ではわかり合えない。これには「受け取り手のコンディション」を認めざるを得なかった。

 それでも未だどこかで「絶対的音楽」の存在を信じている自分も否定できないのだが、これについてはバランスだというのが今のところの仮説だ。そこに聴衆が何人いようが、何なら誰もいなくたって変わらない存在としてそびえ立つ「音楽」はわたしの中にある。でも多くの哲学者が証明してきたように、人は人を前にしてその意識から逃れることはできなくて、相手の存在を感じたら最後、見られていることを前提にした行動しか取れないのである。そう考えると、聴衆の在り方が奏者に影響を及ぼすと考えるほうが自然で、ひいては聴衆の発する気配が変われば、出てくる音も自ずと変容する。

 ちなみにカフェで会った件のおじさんも、強いて言うとわたしと同じく音楽を絶対的なものと捉えていたようで、友人たちの言葉はあまりしっくりこない様子だった。でもたとえば、もしあのおじさんが今わたしの演奏会に来てくれることがあったら、わたしはきっと語った通りの「絶対性」が見える演奏をせねば、と思ってしまうだろう。意識というのはそれだけ人を縛るものなのだ。今では年に一度くらいしか通らなくなってしまった「裏のカフェ」の前だが、歩くたび、あのおじさんは元気かなと考える。もしかしたらそのカフェに来る人にもあの質問をふっかけているのかもしれない。

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次回もお楽しみに!

  • 支援者

    30

  • 残り期間

    0

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    目標金額:800,000

  • 達成率75%

    FUNDED!

2020年10月16日23:59に終了しました。

支援期間終了

起案者

実行者イメージ

Project NAKA

Project NAKA は、他分野との ... コラボレーションにより、クラシック音楽の可能性の大きさを探る試みです。
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